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2020年11月14日 (土)

「未来のサイズ」★俵万智著~オジ(イ)チャンは悲しい

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空の青海のあおさのその間(あわい)サーフボードの君を見つめる(サラダ記念日)
沖に出て小さきカヌーとなりながら手を振るものを若者と呼ぶ(未来のサイズ)

一番上の句は、1987年発行の第一歌集”サラダ記念日”より。俵万智さんは1962年生まれですから、25歳の時の短歌集といっても、25歳の作ったというのではなく、25歳までに書きためていた短歌の中から選んだものです。

下の句は今度出版した第六歌集”未来のサイズ”。2013年~2020年までの短歌だそうです。俵万智さんは今年57歳。上の歌と下の歌では32年の年月が流れています。この間、2006年仙台市に移住、2011年の東日本大震災により石垣島に移住、2016年に宮崎市に移住。2003年(41歳の時)に出産をしています。


上の句と下の句、両方比べれば沖を見ながらも片方は恋人を見つめる目。もう片方は少し一般的な目のような感じ。はやり、32年の歳月があるようです。


サラダ記念日を読んだときは、その新鮮さに目を見張りました。短歌、俳句といえば年寄りの趣味かと思っていたら「カンチューハイ」「サラダ記念日」などの言葉が入って、エ~~!(T_T)という思いでした。


今読み返してみると、下の句など、若い感覚の中にも男性に頼りたいという若い女性の心がにじみ出ているようです。


「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの(サラダ記念日)

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日(同)
また電話しろと言って受話器を置く君に今すぐ電話をしたい(同)
「また電話しろよ」「待っていろよ」いつもいつも命令形で愛を言う君(同)
真夜中に吾を思い出す人のあることの幸せ受話器をとりぬ(同)

第三歌集の「チョコレート革命」。35歳の時の歌集。同じ恋の歌でも、若いときの恋歌とは違っています。随分濃密な短歌になりますが、後書きで恋の歌は「ほんとうにあったんですか」について次のように書いています。


・・・確かに「ほんとう」と言えるのは、私の心が感じたという部分に限られる。その「ほんとう」を伝えるための「うそ」は、とことんつく、短歌は、事実(できごと)を記す日記ではなく、真実(こころ)を届ける手紙で、ありたい。/人を想って揺れる心は、これからも私にとって、大きなテーマだ。恋の歌は、大きなテーマだ。恋の歌は、死ぬまで詠み続けたい。


幾千の眠りを覚まされて発芽してゆく我の肉体(チョコレート革命)

午前四時夢のつづきを抱き合えば濃くなる我の輪郭(同)
抱かれることからはじまる一日は泳ぎ疲れた海に似ている(同)
別れたるのちに覚えしカクテルを選んでおりぬ再開の夜(同)

すみません、突如別の話ですが、最後の短歌読んで思い出すんですね。私の好きな、グラシェラ・スサーナの「古い友達」。「別れて覚えた 慰めの煙草」ってところ。関係ないことでスイマセンm(_ _)m。


第四歌集の「プーさんの鼻」。43歳の時の歌集。このとき、身ごもっている時から子供が赤ちゃんの時の歌。はじけるような明るさ、うれしさがヒシヒシと感じられます。


耳はもう聞こえていると言いわれればドレミの歌をうたってやりぬ(プーさんの鼻)

生きるとは手をのばすこと幼子(おさなご)の指がプーさんの鼻をつかめり(同)
バンザイの姿勢で眠りいる子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ(同)

そして今回の第六歌集。「未来のサイズ」。57歳です。子供も大きくなっているようで・・・


子を産みて仙台・石垣・宮崎と慌ただしかり我が十年(未来のサイズ)

理系文系迷う息子が半日を「星の王子さま」読んでおり(同)
不条理とは何かと問われ子に渡す石牟道子『苦海浄土』を(同)
つまらない母親役をやっており髪染めたいと言いつのる子に(同)
生き生きと息子は短歌詠んでおりたとえおかんが俵万智でも(同)

もちろん、恋歌もありますが、パラパラとページをめくっていくと、子供の歌が多く受けられます。


さて、ですね以下のような短歌がありました。


プレミアムモルツ飲みたくなるような病名を聞く初夏の病院(未来のサイズ)

わかりやすい老化と思うことにした「ゆっくり進む病」(同)
封をした検査結果をふところに運び屋のごとく戻る病院(同)
誰だって何かで死ぬと思えども死よりも病を恐れる心(同)

俵万智さん、いままで”死”とか”病気”の歌は作らなかった気がするのですが、57歳と言えば、まだまだ若いですよ。老人クラブにはまだ入れてくれません。「死」とか「病気」とか「病院」は、お爺さんお婆さんが作る歌ですよ。俵万智さんの、このような歌を読むとオ(イ)ジサンはなぜか悲しい。ヒョッとしたら、なにかの病気ではという感じもあります。


俵万智さんは「チョコレート語訳 みだれ髪」という、与謝野晶子の短歌を訳した作品もあるじゃないですか。


柔肌の熱き血潮に触もみで悲しからずや道を説く君(与謝野晶子)

俵万智さんには、素晴らしい恋歌を作ってもらいたいものです。偉そうに書きましたが、実は私、上の四冊しか読んだこと無いのですが・・・





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