第116回「なつぞら」~「商売〼〼繁盛」について
なっちゃんの後ろの貼り紙「商売〼〼繁盛」と書いてあります。「〼」は「枡」を記号化したもので「ます」と読みます。ですから、貼り紙の文字は「商売ますます(益々)繁盛」と読みます。言葉遊びの一種です。
そのほか「空き家あり〼(ます)」「冷やし中華あり〼」などと使い、多分皆様も、あちらこちらで見かけることがあると思います。
ただですね、「〼タ●ー●●ン」などと使わぬように。ここ、分かる方は分かるし、分からない方は分からないと思いますが・・・・
さて、ここで若干問題があります、枡は「☐」で良いのではないか、「☐」の中の斜線はなんなのさ?という事です。
ウィキペディアで「〼」を調べると下記のように書いてあります。
・・・この用例は(注:〼を「ます」と読むこと)は江戸時代にかなり多かったが現代になってからは使用頻度は少なくなった・・・
下は私が所持している尾張藩の一升枡です。明治から現代まで150年あまり、と考えるとそれ以前の物だと分かります。もちろん、江戸時代のものです。
ご覧のように斜めに金具が入っているのが分かります。これで「商売ますます繁盛」は「商売☐☐繁盛」ではなく、「商売〼〼繁盛」という事が分かると思います。江戸時代の「〼」の記号をいまでも使っているという事です。
この斜めの棒は「弦鉄」といい、米を計るとき上を平らにするため、「斗掻き(とかき)」「枡掻き(ますかき)」「枡掛き」という木の棒を使いますが、この時、掻きやすいように取り付けられたものだそうです。
小泉袈裟勝氏は「ものと人間の文化史36 枡(ます)」(法制大学出版局刊)で弦鉄の使用について疑問を書いておられます。詳しく書けば長々なるので、「枡」について研究されたい方は一読のほどを。この弦鉄がある枡を「つるかけ」「つるかけます」といいます。
さて、この私の尾張藩の枡と同じ尾張藩の枡が「東洋計量史資料館」置いてあり(ただし「弦鉄無し」)、以下のような説明になっています。
「資料名・品名★新京枡(徳川家康・尾張藩)」「年代★江戸時代」「収集者★東洋計器(株)土屋泰秀)「製造元・国★日本(名古屋)」「サイズ★口広:四寸九分 底深:二寸七分」「用途★米(年貢)」「要旨★徳川家康が定めた公定枡の規格で造られた尾張藩の焼印があり新京枡。京枡より約3%多く入れられるよう作られている」。これも一升枡です。
なお、枡は大きさをごまかされない様に「枡改」をしています。
上の写真、左が尾張藩の焼き印、右は中の方まで焼き印が押してありますが、これは中に貼りものなどして、容量の不正を防ぐため。年貢などのときにごまかされないための予防。
下の左の写真、底板とその上の板に契印みたいに焼き印を押していますが、これも枡の改造防止のためでしょう。
下の右の写真、底の焼き印ですが、枡の大きさを焼き印しています。写真では分かりにくいですが「四寸九分」「二寸七分」。一升枡の大きさです。真ん中の丸いのは多分「穀用」ではないかと思われます。なお、「液用」の枡もありました。酒とか油などを計ります。大きさが「四寸九分」「二寸七分」で「東洋計量史資料館」に置いてあるものと同じ大きさですから、「新京枡」になります。
なお、島原半島の南串馬場庄屋の古文書に「枡改」の所に「弐寸七分 壱升」などの文字も記されてありますから、島原藩もこの「新京枡」を使ったことが分かります。
枡については最初からこの大きさではなく、信長時代、豊臣時代、徳川時代と段々統一され、最終的にはこの新京枡が公認の枡になっています。
なお、江戸時代に京都と江戸で枡を専売した機関として「枡座」がありますが、東国は「樽屋」、西国は「福井家」。この両家で枡を造り枡改めを実施しますが、枡の製造を自藩で行うところもあり、枡座の完全な製造・販売の独占体制は不可能であったようです。越後高田藩、紀州藩などが藩は独自に枡を作っていたそうです。
下の写真は京都市が行った「福井家旧蔵 京枡座関係資料調査報告書」の中の1ページです。「弦鉄」のない枡もありますが、このように「弦鉄」が使われたものがたくさん載せてありました。
枡については上に紹介した、小泉袈裟勝氏の「枡(ます)」と京都市の報告書を参考にしましたが、興味のある方はご一読を。小泉袈裟勝氏の本は少し大きな図書館にあると思いますが、京都市の報告書は入手しにくく、京都の図書館あたりには置いてあると思うのですが・・・
以上、長々と書きましたが、私自身も消化できないところもあり、分かりにくかったかと思います。「なつぞら」の「商売〼〼繁盛」を見て、以前調べていたものを思い出したので・・・<(_ _)>
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