「ヤマンタカ~大菩薩峠血風録」~夢枕獏著
夢枕獏さんの新刊が出ていたので買いました。
実はAmazonでチェックをしていたら、この本を見つけ、注文したのが2月1日。「お届け日」が、2/10-2/20になっていて、いやに遅いなと思いながらも注文。でもって、よく見たらkindle版があり、すぐに読めるじゃありませんか。気づいたのが2月4日でkindle版でダウンロードして、注文した書籍版をキャンセルしたら、「キャンセルリクエストをしていただいた以下の商品をキャンセルできませんでした。」だと。
もっとも「商品がご不要の場合は、商品配達時に受取拒否をしていただくか、下記のURLをご確認ください」と、要するに返品可能ということですが、結局、kindl版と書籍版、活字本と電子版ではどう違うか、読み比べをしてみようと、半分づつ読んでみましたが、はやり、今まで何十年と活字本で読んだためか、はやり活字本が読みやすいですね。便利、早い、安いのは電子版ということは認めますが。
さて、「ヤマンタカ」は中里介山著「大菩薩峠」を基にした本ですが、「大菩薩峠」は昔は超有名な本で、映画化もされました。私も、小学校の時見たのを覚えていますが、多分、市川雷蔵が主演だったかな?
小説を知らない方も、「机龍之介」とか「音無しの構え」とかは聞いたことがあるかとは思います。知らない?ご存じない方はWikipediaでお調べを→こちらをクリック
この物語、あとがきで夢枕獏さんも書いているように「これまで三度ほど挑戦して、ちくま文庫で言えば、全三十巻のうち、二巻も読み切れなかったのである。」という超大作小説で、私も途中挫折派です。なお、我こそは、と思われる方は「青空文庫」でロハで読めますのでご挑戦を。
この小説の分かりにくさは、夢枕獏さんによれば「伏線とおぼしきものが、ほとんど回収されておらず、江戸にいたはずの人間が、いきなり別のところに出現したり、東海道を西にむかっていたはずの人物が、東に向かっていたり(このあたりぼくもよくわかっていないので、ニュアンスとして書いています)で、物語は破綻しまくりなのである」という事です。
原因として、この小説は「都新聞」に連載され、単行本化するとき、文章が三割削られ、削ったことによる生じる破綻部分の辻褄合わせをしなかったそうで「『制作上』『物語上』の理由から大幅に原稿を削除しなければならない中で、改めて書き直すだけの時間も余裕もなかった」からだそうです。
夢枕獏さんのこの本は、「面白い剣豪小説を書く」ということだそうですが、読んでみて、「格闘技剣術小説」かな?
主人公は、机竜之介ならぬ、なぜか、新選組(まだ、以前の)、土方歳三。どう読んでも主人公は土方歳三ですね。近藤勇や沖田総司も出演しますが、この沖田総司の軽いこと、軽いこと
「近藤は、腰の刀を、左手で握って見せた。
『ずるい』
そこで、声をあげたのは。沖田であった。
『近藤さん、ここは、ぼくですよ。ぼくにやらせてくださいよ』
沖田が前に出た。
じろり、と近藤が沖田を睨む。
沖田は、それにめげず、
『決まり』
そう言った」
という三枚目の扱いです。剣術の腕はたいしたものですが・・・・
小説の前半の山場は、関八州の武術者が腕を競う、御嶽神社での奉納試合。ここで、中里介山原作にはない、「天然理心流、土方歳三」対「馬庭念流巽十三郎」があります。そして、メインの「机竜之介」対「宇津木文之丞」。ここ、中里版では木剣を使っていますが、夢枕版では真剣です。その試合がどう展開するか、読んでネ。さすが、格闘技を書いては、日本一の夢枕獏さん。
後半の山場が机竜之介の「音無しの構え」と、「机竜之介」にかかわる秘密。これは、夢枕獏さんの発想になります。一番おいしいところです。
なお、この小説は新聞連載で、我が地方紙には載せてありません。新聞連載中のサブタイトルは「新伝・大菩薩峠」。題名の「ヤマンタカ」は「地獄の閻魔を殺す者」。本地は「文殊菩薩」。「地獄の閻魔を殺すほどの力を持った尊神の実体が菩薩ー最凶にして菩薩」。
この本「血風録」になっており、ひょっとして続編を考えているんじゃないでしょうね。何せ、「キライマ」、「餓狼伝」、「獅子の門」も、どこで終わるか、まだまだ続いています。
「あとがき」の最後に作者曰く。
おもしろいぞ、この本は。
腰をぬかすなよ。
(「ヤマンタカ」のあとがきを参考に紹介してみました。この部分、創作の一端がよく分かり参考になるところです)
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コメント
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中里介山「大菩薩峠」は高校生時代に嵌って読んでいたので懐かしいですね(^^;
ですからこの本も読むつもりですが登場人物で好きだった「宇治山田の米友」や「盗賊七兵衛」は登場しないのかな?
投稿: 心づくし | 2017年2月15日 (水) 21時29分
記事に書いているように、中里介山の小説とは違い、あくまで、夢枕獏の「格闘技剣術小説」です。「盗賊七兵衛」は出場アリです。活躍します。
「人間界の諸相を曲尽して、大乗遊虚の境に参入するカルマ曼荼羅の面影を大凡下の筆に写し見んとするにするにあり。」というのとは全く違いますので、ご注意を。
特に、主人公が土方歳三になります。また、机龍之介の体に関する秘密には、小説構成上、賛否あると思いますが、まあ、夢枕獏流だと思えば、ですね。中里介山を離れて、面白い小説でした (^-^;
投稿: sgikan | 2017年2月16日 (木) 20時23分