「眩(くらら)」~朝井まかて著
先日、右の杉浦日向子さんの「百日紅」を紹介しました。葛飾北斎の娘、お栄が
主人公になりますが、本屋さんに行って見ていたら、左の本が目につき、本の帯
を見たら、なんと北斎の娘、葛飾応為こと、お栄が主人公の物語。で、買わない
わけにもいかず・・・感想文のようなものを・・・
「眩」で、「くらら」とは、手持ちの私の辞書には載って無く、「眩」の意は「くらむ・
くらます」。考えると、絵にしても、演劇にしても、音楽にしても、我々はその美に
眩んでいるということで、なかなか考えた題で、本の帯の後には「胘々するほど
の命の息吹を、あたしは描く。」
杉浦日向子さんと違う所は、二十二歳の時、南沢等明という雅号を持つ町絵師
に嫁ぐが、たいした絵師では無く、性格も合わず離縁。
「百日紅」に出てくる、渓斎栄泉こと善次郎は登場しますが、描き方が少し違い、
結ばれますが、ほんの一時の事。なお、善次郎の姉妹をモデルにした「三曲合奏
図」を描いていますが、その時のお栄の工夫も良く書いてあります。
北斎とお栄は、お栄の姉の忘れ形見、時三郎に悩まされ、成長するとともに、北
斎の名を利用し借金を重ね、それが為に一生の借金地獄になっていくわけです
が。
なお、北斎は中気で倒れますが、その時、訪れたの滝沢馬琴。「絵師風情がこの
まま草木のごとく枯れ果てようと、儂にはなんの痛痒もござらぬ。いかほど名を上
げておろうが、たかが浮世絵師一匹、・・・・」と罵倒しますが、病気の直し方を教
えていき、北斎は再び絵筆を持つようになっていきます。
とまあ、話のテンポは良く、浮世絵に興味を持ている方は、当時の絵の具を作る
方法なども書いてあるので参考になると思います。
なお、長崎から「川原慶賀」が訪れ、絵を頼みますが、この川原慶賀は長崎の画
家で、シーボルトが蒐集した動植物等、シーボルトの注文に応じ「日本」という本
の挿絵の精細写生画を描いています。
北斎が冨嶽百景を書いていく逸話、お栄が絵に描ける執念。その他、諸々の有
名人が登場していきます。なお、当時の浮世絵画家の様子がよく分かります。
「正直言って、俺が七十になる前に描いたものなんぞ、取るに足りねぇもんばかり
だ。七十三を越えてようやく、禽獣虫魚の骨格、草木の出生がわかったような気
がする。だから精々、長生きして八十を迎えたら益々画業が進み、九十にして奥
意を極める。ま、神妙に達するのは百歳あたりだろうな。百有十歳にでもなって
みろ、筆で描いた一点一画がまさに生けるがごとくなるだろうよ」、北斎の言葉
です。
なお、「胘」の本の表紙は、葛飾応為が描く、「吉原格子先之図」です。
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