「杉浦日向子」さん 其の一
古本屋さんで、ユリイカの杉浦日向子さんの総特集号を入手し、懐かしくも杉浦
日向子さんの漫画を読み返してみました。とはいっても、カミサンから、「漫画邪
魔!」と言われて、ほとんど処分してしまったのですが・・・
杉浦日向子さん、生まれたのが1958年11月30日、1993年漫画家から引退
して、江戸風俗の研究家として活動をし1995年からNHK「コメディーお江戸でご
ざる」に出演しながらも、2005月7月22日に亡くなり、享年四十六歳。
TVではいつも、着物姿でしたが、私生活では、キンクス、ライ・クーダー、ザ・バン
ド、10CCも好きだったようで、福田由美さんによると、「日頃はむしろアバンギャ
ロルドなスタイルを愛する人だったように思う。ミニスカート、大胆なストッキング、
ハイヒールなどは、意外に好みのスタイルで、光りものも嫌いではなかったよう
だ」という一面もあり、酒も強く3名の取材の旅で、「地元の誇る銘酒、黒龍酒蔵
の『石田屋』(四号瓶)をぺろっと空けて、その後も黒龍銘柄を順に飲み干してい
た記憶がある。豪快な酒席であったが、翌朝も杉浦さんはけろりとしていた。」と
いう事ですが、この時、杉浦さんは既に病気であったそうです。
この「ユリイカ」には、中島梓(栗本薫)さんも一文を載せており、初めて中国に旅
行に行った時は「まるで生まれてこのかたこうしていたみたいに、中国旅行のあ
いだじゅう、しっかりと手を握りあって(略)ほんとに女学校の親友どうしのような
のりで楽しく過ごすことができました。」という仲であったそうですが、杉浦日向子
さんが喉頭癌、中島梓さんが膵臓癌で2009年に56歳で亡くなっています。
この「ユリイカ」が発行されたのが、2008年で中島梓さんは闘病中で「『あちらに
いけばあえるのだろうか』というようなことも思われます。まだ此岸に心残りは
多々あるのですが・・・。」と書いていますが、次の年には亡くなられております。
さて、「百物語」にまつわる話は、夏目漱石「百物語」にも書いてあり、100本の
蝋燭を立て、100人(集まらない時は20,30名等で)が、ひとつずつ怪談話を
し、百話終わった時に、本物の妖怪が現れるということです。
杉浦日向子さんのは少し違っていて、ご隠居さんが百人の人に話を聞いていくと
いう筋立てになっています。この一つ一つの話が、なかなか分かりにくく、例えば
「出羽国の猟師の話。爺様と鹿を追って渓に迷った時のこと。俄の雷雨に這い込
んだ岩窟で、仙人を見た。岩の窪みに座禅を組み、半眼で静かに息をしていた。
その猟師が後年、孫を伴い彼の渓を通りし折、件の洞穴で同じ仙人を見た。人
の形に抉れた岩には、蓮(はちす)の実の如く干からびて居たが枝で腹を押す
と、柔らかだった。前に見た日から五十年は経っていたという。」
このような物語が並んでいるわけで、読者としては、何が何やらという感じです
がこれについて、杉浦日向子さんと中沢新一氏の対談で、読者に「置き去りマン
ガ」といわれた事を話し、「読者を置き去りにしてヒュと終わっちゃって、なにがな
んだかわからないという投書がおおかったんです。」とか。なにしろ、起承転結が
ありません。
また、円朝の怪談にたいし理詰めではないかと話し、「それまでは、『わかんねえ
ものはわかんねえ、不思議だな』で、終わっちゃうもののほうが多かったんですけ
ど、円朝はかなり西洋風ですね、バタ臭いというか。全然日本的なものとは違
う・・・・。(略)」と述べています。
私たちは、この「百物語」を読むにあたり、杉浦日向子さんが、なにか分からない
物をごろっと転がし、(杉浦日向子さんにも分からないでしょうが)、それをそのま
ま「わかんねえものはわかんねえ、不思議だな」と楽しめば良いのではないかと
思うもので、なまじ、近代的な理性ではいくら考えても分からないでしょう。知的な
眼鏡をかけていては楽しめない漫画です。
なお、この「百物語」が、杉浦日向子さん楽しかったらしく、というのも8ページと
いう短ページが良かったらしく、「ぐっと絵を描くのが楽になりました。それまでは
辛かったですよ。」また、「フッと肩の力が抜けて、とても楽な感じでした。」とも述
べていますが、「原作がきちんとあるのは30パーセント以下だと思いますね。あ
とはイマジネーションで出たとこ勝負、締切の朝に思いつくというか(笑)。なにし
ろ短いですからね、エピソードだけでストーリーなんかいらない。(略)話のための
場面じゃなくて、場面のパズルなんです。」ということです。
年譜を調べて見ると、随筆等を除いては、これが最後のまとまった漫画みたいで
すが、「百日紅(さるすべり)」とともに、この「百物語」が代表作というか、漫画の
金字塔ではないかと思うのですが、これを読むと、近年の小説の物語性がいか
に衰弱してきているかと感じるものでした。
テレビもゲームもスマホもPCもコンビニも街灯もなく、夜は闇であり、聞こえるの
は自然の音だけである時代に思いを馳せながら、この一冊を読まれることをお
薦めします。なお、妖怪は出てきますが、なんとなく、ホッコリする物語ばかりで
す。
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