「漂流怪人・きだみのる」~嵐山光三郎著
【注:以下は差別用語に関する事があるので、不愉快な方はスルーして下さい。】
先日、本屋さんにいったら「きだみのる」の文字が、目に飛び込んできたので、な
つかしく、反射的に買ってしまいました。もっとも、きだみのるさんのファンでもな
いのですが・・・昔は脚光を浴びた人で、確か中学校の時だったか、代表作の
「気違い部落周游紀行」を読み、といっても中学生の平凡な頭脳ではなかなか理
解できない所もあり、といったところなのですが・・・
さて、若い方はほとんど、知らないと思いますが、この本の裏表紙の帯に、本の
紹介と共に、きだみのるさんについて書いてあるので、そのまま写してみます。
■きだみのるはファーブル「昆虫記」の訳者(注:山田吉彦の名前で翻訳)で、戦
中「モロッコ紀行」を書いたブライ派の学者である。雑誌「世界」に連載した「気違
い部落周游紀行」はベストセラーになり、渋谷実監督、淡島千景主演(松竹)で映
画化され大ヒット。嵐山は雑誌「太陽」の編集員であった28歳の時、きだみのる
(75歳)と、謎の少女ミミくん(7歳)と一緒に取材で各地をまわった。フランス人
趣味と知識人への嫌悪。反国家、反警察、反文壇で女好き。果てることのない食
い意地。人間のさまざまな欲望がからみあった冒険者。きだ怪人のハテンコウな
行状に隠された謎とはなにか。
きだ氏には、複数の女性の間に複数の子供がいますが、ここに出てくる「少女ミミ
くん」が最後の子供になります。
のち、分校のササキ先生夫妻に引き取られまが、このササキ先生が、きだみの
る、ミミくんをモデルに「子育てごっこ」を書いた、三好京三であり、その後、ミミ君
と三好夫妻との間に葛藤があり、スキャンダルにまで発展することになるのです
が、その事については、この本に詳しく書いてあります(当時を知る方も多いと思
いますが・・・)。
なお、きだ氏は、カメラマンのキャパとも親交があり、開高健、檀一雄、大城立裕
も出てきますが、圧巻なのが、辻潤との親交、大杉栄、伊東野枝、そして、大杉、
野枝を殺害した憲兵甘粕大尉が、きだ氏に接触し情報部に入るよう誘った話。こ
れにはビックリポンです。
作者の嵐山光三郎氏が、きだ氏に出会ったのは、編集者と作家として、きだ氏の
晩年の5年間だったそうですが、読んでみて、きだ氏の魅力、オーラがよく分かり
ます。まあ、時々話すには良いが、いつも付き合うのはご遠慮したいと思うもので
ありました。です。
さて、きだ氏の代表作に「気違い部落周游記」があり、ベストセラーになりました
が、現在、図書館にもこの本置いているところが少なく、残念ですが・・・
なお、この本(冨山房百科文庫版)、きだ氏の子供、山田彝(つね)氏の「あとが
き」を読むと、きだ氏がこの本を書いたスタンスがよく分かります。
きだ氏はパリ大学で、マルセル・モース氏に師事し、モース氏は「・・・小さな、そし
て比較的に孤立した、外界からの影響の少ない集落で現地調査、フィールド・ワ
ークをして観察記録を残すよう奨めている。・・・」ということで、九百軒ばかりの村
の中の、一番小さな十四軒の家からなる集落に住むことになり、「気違い部落周
游紀行」が生まれる事になるのですが・・・
この本、67章から成り立ちますが、一番最初が「グザヴィエ・ド・メェストル、閉門
に処せられること」ですが、グザヴィエ・ド・メェストルが決闘をし、六週間にわた
り、閉門に処せられた時、「彼はそのとき住み慣れて知りきっていると信じた自分
の部屋の周游を志すことに依ってこの憂さを消そうと計画したのであった。・・・」
とありますが、山田彝氏のあとがきによれば、これがまったくの間違いである事
が詳しく説明してあり、「読者の方々には、父に代わって、お詫び申し上げる他は
ない。」という事だそうです。
「気違い部落周游紀行」という題は、第9章「気違い部落という文字の使用につい
て」のなかで、「・・・私が気違い部落と書く代わりに愉しい村、面白い村、模範部
落としても、これらの標題は、叙述の一言を改めずとも内容を裏切ることはなか
ったであろう。標題はより多く心理的パースペクチブに関係しているのであるか
ら。」とあり、山田彝氏も「『気違い部落』というのはまったく強烈な言葉であるが、
本文中にも書かれているように、『気違い』は具体的に狂人を意味しているわけ
ではない。『部落』も、人間が集まって暮らす一つの集落、コミュニティーをいって
いるだけであって、それ以外の意味はない。誤解されかねないこのような言葉を
わざわざ題名に使ったのは、読者の好奇心をそそって、この本を読む気を起こさ
せようという著者の意図と、もう一つの理由があったのである。・・・」と書かれて
います。
現代、チマチマとした人間が多い中、このような強烈な個性を持った人間がいた
ことを知って欲しいと思い、紹介まで。本当に強烈な人間で、嵐山光三郎さんも
苦労しながら、きだみのるという人間に魅了されていったことが分かります。
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コメント
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懐かしい名前ですね。単行本探せば出てくるかも・・・
投稿: むさしの想坊 | 2016年3月 5日 (土) 14時22分
嵐山氏が影響を受けたという、きだみのる著の「モロッコ紀行」(日光書院刊行)が見当たりません。岩波新書「モロッコ」ならあるのですが、これは写真が入って無く、内容も改訂されているとのこと・・・(;ω;)
投稿: sugikan | 2016年3月 5日 (土) 22時37分