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2016年3月15日 (火)

「杉浦日向子」さん 其の二でおしまい

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杉浦日向子さんの「百日紅(さるすべり)」です。


登場人物は、葛飾北斎、お栄(北斎の娘で絵師、かなりの腕前)、池田善次郎

(のちの栄泉)、時々、歌川国直、その他。


全部で二八話の物語で、人情話あり、笑い話あり、妖談話ありで、言ってみれば

上質の落語を聞いているような感じです。


面白いのが、第二巻の村上龍氏の前書き、「欲情をおこさせるもの」。

氏は食い物が出てくる小説、漫画、エッセイ、映画を観た後で、どうしても食べた

くなったことは一度しかなく


「それは杉浦日向子の『百日紅』第一巻の第八話、北斎と弟子の井上政がすっ

ぽんを食べるエピソードだった。そのエピソードを読んだ後、私は新橋までタクシ

ーを走らせてすっぽんを食べに行ったのだが、今、あの『欲情』は何だったのだろ

う?と考えている」


と書いていますが、後日、杉浦日向子さんとの対談で、日向子さん曰く、「あら、

実際にすっぽんを食べたんですか、うれしいな、実はあたし、すっぽんなんて食

べたことなかったんです」


村上氏は続けて、「つまり、作者の想像力がある強い力を生みだしたわけで、そ

れは表現者の完全な勝利だとおもう。」と書いていますが、私たちも、杉浦日向

子さんの、「作者の想像力がある強い力を生みだした」江戸時代に引きずり込ま

れ、「百日紅」を読んでいるのではないか、と感じるものでした。


なお、この物語の表紙は、北斎、栄泉の模写をしており、物語の中にも浮世絵の

模写が出てくるところもあり、それを考えながら読むのも一興でしょう。

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「合葬」は「彰義隊」の青年達の事を描いたものですが、無くなりゆく「江戸時代」

への愛惜を感じるものでした。最後の所に、反骨の江戸っ子の落首が紹介して

あり・・・

・上方のぜいろく共がやって来て とんきやう(東京)などと江戸をなしけり

・上からは明治だなどと云ふけれど 治明(オサマルメイ)と下からは読む。


「風流江戸雀」は、古川柳「柳多留」を素材にし、それを元に漫画にしたもので、

・おちゃっぴい へそから出たと 思って居

・むかしの女 女ではなし

・花の ねりまのあとに 干し大根

・二日の夜 浪のり船に 楫(かじ)の音

といった川柳に、日向子さん流の物語が描いてありますが、最後の川柳どんな

意味かわかった方は、すごく頭が良い。

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杉浦日向子さん、酒豪で食通のようにみえますが、ソ連(ソバ好き連)の会話の

なか、「日向子さんは食の細い人だったので、テーブルの上のものを人に上手に

勧めることで如何にも自身も食べているかのようにみせてましたね。実は食べて

らしゃらなかったということは後になって初めて気づく。」「それは全然わからな

いんだよね。そうすることで周りに気を遣わせなかったな。」「あれは本当にすご

い技術で、付き合い始めのころはその事実にしばらく気付きませんでしたもの。」

これだけでも、杉浦日向子さんの人柄が分かると思います。


「百日紅」の口絵の一枚ですが、絵を描いているのは北斎の娘「お栄」。

杉浦日向子さんの書斎はJBLのスピーカーなどを置いて、きれいにしています

が、なんとなく、お栄さんが、日向子さんに見えてくるのでした。

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