「説経節 さんせう大夫」と「森鷗外 山椒太夫」 その1
「山椒太夫」といえば、森鷗外ですが、解説まで読んだ方には分かるとおり、この
小説は、「説経節 さんせう太夫」を基にしたものです。
この間の事については、「歴史其儘と歴史離れ」という、エッセイにのっており
(青空文庫でロハで読めます)、「わたしは歴史の『自然』を変更することを嫌つ
て、知らず識らず歴史に縛られた、わたしは此縛の下に喘ぎ苦しんだ、そしてこ
れを脱せようと思った。・・・・わたしは種々の流派の短い物語を集めてみたこと
がある。基中に粟の鳥を逐ふ女のことがあった。わたしはそれを一幕物に書きた
いと弟に云った。・・・粟の鳥を追ふ女の事は、山椒大夫伝説の一説である。わた
くしは昔手に取った儘で捨てた一幕ものの企てを、いま短編小説に蘇らせようと
想ひ立つた・・」。
このあと、小説に工夫したことが書いてありますが、ふと、疑問が、なぜ、「山椒
太夫」なのか?
昔の、本を読めば、一番多いのが「さんせう太夫」「三庄太夫」「山荘太夫」で、「さ
んせう」は、荘園に関係がありという説もあり、「山椒」では、意味が通じないので
すが、ひょっとしたら、鷗外さん、歴史離れをしたかったのかな?鷗外が読んだ
底本は何だったのか、気になります。
じつは、私、「節談説教」と「説経節」を同じものだと思っていたのですが、「節談
説教」は、浄土真宗の仏教布教の一つの手段だそうで、一般の庶民に仏法を分
かりやすく、節を付けたもので、浪曲、講談、落語の母体となったものだそうで
す。
さて、「説経節」については調べると、ずるずると引きずり込まれて、まだ、まとま
っていないので、ボチボチ書いていくつもりですが、田舎で資料がないので、どこ
まで分かることやら・・・
鷗外の「山椒太夫」と「説経節 さんせう太夫」がどれくらい違うか、最初だけ書い
てみると、鷗外は
「越後の春日を経て今津へ出る道を、珍しい旅人の一群れが歩いている。・・」
説経節、「古浄瑠璃説教集~新日本古典文学大系・岩波書店刊」では
「抑(そもそも)丹後国。金焼き地蔵の御本地を詳しく尋ね奉るに、国を申せば陸
奥の国。日の本の将軍岩城の判官正氏殿の。守本尊ときこえる。・・・」
「説経節(東洋文庫刊)」では、
「ただいま語り申す御物語、国を申さば丹後の国、金焼き地蔵の御本地を、あら
あら説きたれひろめ申すに、これも一度は人間にておわします。・・・」
もちろん、現代文学と、語りの物語で、違うのは当たり前で、まして、語りものは、
口承文学ですから、一つ一つが違ってくるのは当然ですが。
鷗外と説経節では、中身も違っており、普通、母親は佐渡島へ売られたと思って
いますが、説経節では、上の本両方とも「蝦夷が島へぞ売ったりけり」となってお
り、能がないとて、足と手の筋を断ち切って、「日に一合を服して(食べて)」、粟
の鳥を追う事になります。
なお、鷗外では安寿は入水して亡くなりますが、説経節では、山椒太夫の息子
から、「十二段の梯子に絡みつけて、湯責、水付けにて問ふ、それにも更に落ち
ざれば、三つ目錐をとりいだし 膝の皿をからりからりと揉うで問う」と残酷な責
めを負い、最後には炭火で焼き殺されます。
また、最後の方、鷗外は山椒太夫の「一族はいよいよ富さかえた。」と書いてい
ますが、実際は丹戸の国主になった厨子王が、太夫を首まで埋め、安寿を責め
殺した、太夫の息子、三郎に竹鋸で首を切らせ、その三郎の首も同じように、「三
郎をやすみが小浜に、連れて行き、行き戻りの、山人たちに、七日七晩、首を引
かせ・・・」たそうです。
こうしてみると、鷗外は極力、残酷な場面をさけているような感じがあるのです
が、両方読んで見て、読みやすさ、スマートさは鷗外、力強さ、民衆の心を伝え
ているのは、説経節の方だと思うのですが・・・
(追伸)
「東洋文庫」には「山椒大夫」と書いてありますが、後書きで、「鷗外の小説
があまりにも有名なため、『山椒』と書くのが常識のようになっているので、本書
でも、これに習うことにした。」とあります。
伊藤比呂美さんの本は、現代語訳で、読みやすくなっています。
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