「ある小さなスズメの記録」人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯~クレア・キップス著 梨木香步訳
本の大きさがA4の半分弱、この大きさにしては珍しく上品な箱入り。出してみた
ら、紺色のクロス風の紙の装幀でハードカバー、小さな金色の字で表には、
「Sold for Farthing」、裏には著者の「Clare kipps」の文字。なんとも言えない気品
のある本でした。
以前、印刷会社で本作りをやっていたので、良い作りの本を見ると、編集者、作
者、翻訳者、装幀者、印刷会社が、本をいかに大切に出版したかが分かります。
ただ、この原題が、「Sold for Farthing」。日本語題の「ある小さなスズメの記録」
とは全く違います。
「日々の光」(礼拝用の古典)のあるページを、スズメが小さなくちばしで、指して
いた事があるそうで、その文章が・・・本書124ページ。
マタイ伝十章二十九節「スズメは二羽をまとめて一銭でうっているほどのもので
ある。しかしそういうスズメの一羽ですら、主の許しなしでは地に落ちることもか
なわないではないか」から来ているらしいのですが・・・
この物語は、第2次大戦中の1940年7月1日、「寡婦であり、比較的世間から
遠のいた生活」をしている、作者のキップスさんが、家に帰った時、玄関前で、瀕
死の状態にある、小鳥を見つけたところから始まります。
介抱しながらも、今夜のうちに死んでしまうだろうと思ったところ、これが「彼はす
くすくと育ち、元気いっぱいでうるさくせがみたてる雛鳥に成長」したそうです。
自分の力で飛ぶことができるようになれば、外へ放すつもりが、障碍があり、こ
れから一緒に住むようになります。
このスズメは12年と7週と4日を生き抜いたそうで、その間のことを、淡々と、ま
た、時にはイギリス流のユーモアを交えながら、語っています。
スズメに芸を教え、慰問をし、市民防衛隊の重要なメンバーになり、観客が選ん
だカードを当てたりする手品をしたそうですが、ただし、「私がそれを、指したり、
ごく軽く前へ押し出したりして」やったそうですが・・・
なお、カードを、くちばしにくわえて10回から12回、グルグルまわしたそうです。
(「ある小さなスズメの記録」より)
また、スズメというと「チュンチュン」という鳴き声を思い出しますが、このスズメは
歌までうたったそうですが、作者はロンドン王立音楽院卒業で、ピアノのプロの音
楽家ですが、スズメが歌うのも採譜しており
(同書より)
このような曲だったそうです。
その後、11歳を越した時から、調子が変になり、結果的には、卒中だったそう
で、便秘、視力も落ち、羽が抜け、「完全な裸」に見えたそうです。
獣医で鳥専門のリチャードソン博士に、腸炎の薬を処方してもらったりしたそうで
すが、「最後の手段として」なんと、「シャンパンを試してみましょう」ということで、
一応めざましく回復したものの、残念ながら老衰で亡くなり、それでも、十二年と
七週間と四日を生き抜いたそうです。スズメが十二年ですよ!
この本、以前にも出版されたらしく、今回が再出版だそうです。
推理小説とか恋愛小説みたいに、山あり谷ありではありませんが、このような本
は手元に一冊置いておきたい本です。多分、読むたびに新しい発見があり、何
回も読みたくなる本でしょう。
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