「世界はゴ冗談」~筒井康隆著
「筒井康隆」と言えば、ベストセラー作家、文壇の大御所でした。
最近、長編の「聖痕」というのが出ていて、買いそびれて、というより、長編小説
は長く(あたりまえか)、読んでいるうちに居眠りをし 、登場人物が3名以上
になると、誰が誰やら分からなくなるので、パスしました。
今回の「世界はゴ冗談」は、8編の短編小説と、「附・ウクライナ幻想」から、成り
立っています。
本の帯を見ると、作者80歳ですね。もう、ボケているんじゃないかと、あまり期待
せず買ったのですが、トンデモない本で、若い時より凄いんじゃないんですか。
内容をあまり書くと、皆さんが読む時、面白さがないので、少しばかり。
最初の「ペニスに命中」、なんと露骨なと題かと思って読み始めたら、ボケ老人の
話。ところが、この老人、交番所で拳銃を盗み、「どうも昔はわしは刑事であった
のか自衛隊員であったのか、はたまたそれよりずっと前に陸軍中尉ででもあった
のか、拳銃の分解組み立ては目を閉じていてもできるのである。」かと思うと。
警察に捕まり、尋問にあいますが、ボケ老人かと思ったのか、
「三引く二はいくらになりますか」
「その答えは無限にある。二引く一、一、一引くゼロ、百引く九十九、一万六千三
百二十八引く一万六千三百二十七。・・・・特にフェルマールの局所体など整数及
びそれから派生する数の体系の性質などは無数に存在する。・・・では、次はガ
ウスの整数について話してあげようかね。これは代数的整数論の分野における
基本的根幹でもって、・・・」と、まあ、正体が分かりません。
最後は、警察署の保管庫から、64式自動小銃、ルガーP08自動拳銃三丁を
盗みだし、さて、行き先は・・・
「メタパラの七・五人」。死んだ絵本作家が、家族相手に話をしますが、途中から
文学論になり、「48億の妄想」「虚人たち」「朝のガスパール」等について書いて
ありますが、「メタ」は「メタフィクション」、「パラ」は「パラフィクション」のことです。
「・・・この短編を書き上げたあと、十年がかりで本格的な長編パラフィクションに
挑戦すると佐々木敦に約束したのだったが・・」と、十年先が楽しみですね、こち
らがボケていなければ。
「三字熟語の奇」
クリックすると拡大すると思いますが・・・
三文字の熟語が18頁にわたって書いてあり、始めは真面目で、大体2,3頁読
むと飽きてきますが、筒井康隆先生の事ですから、要注意。
途中から「怪岸線」これ「海岸線」ですね。「尼納豆」、尼さんも甘納豆食べますか
ら、「暗息日」、心が暗い「安息日」もあるわけで、「官邸流」、官邸で勝手なことば
かりやっていますから、これ「勘亭流」か?「燗電池」、「乾電池」でお燗つける
やつって、ありましたっけ?「性反対」「署対面」「浄化町」「力一敗」等々、考えな
がら読むと面白いですよ。18頁ありますから、どこで変わっていくか、熟読を。
現代、本を読むと、面白いものの、力強さと言うか、骨があるというか、そのよう
な本が、少なくなったような気がします。小説のあり方を考えさせられる本でし
た。後は、お読みください。
さて、最後に「附・ウクライナ幻想」という随筆があります。小学二年の時読んで、
「イリヤ・ムウロメツ」という、ロシアの英雄叙事詩ヴィリーナに謳われる英雄だそ
うですが、作家になって自分で書こうと思ったそうです・・・もう一度一番上の右の
本を見てください。
作者はもちろん、筒井康隆氏、で、絵が何と手塚治虫さん。手塚さんもイリヤの
ファンで、挿絵を頼んだそうです。手塚さんは、挿絵を書くのに三年ばかりかか
ったそうですが、初版だけで絶版になり、近々出版芸術社から、挿絵も含め復刊
されるそうです。
実は、この「イリヤ・ムウロメツ」の題を見て、どこかで聞いたなと思って、本箱を
ひっくり返してみると、ありました。
時効になりますから、白状しますが、この本40年ほど前、図書館で借りた本で、
返却の催促もなかったので、忘れていました。多分、除籍処分(図書館からの
抹殺)ですね。なお、図書館の本である事の証拠は消しました。ホントに悪い子。
昔からですが・・・・40年間眠らせておいたので、お酒でいえばヴィンテージもの
です。今から楽しんで読んでみます。
なお、「イリヤ・ムウロメツ」の本、Amazonの中古本で、一円から(これは、冗談で
はありません)から、5,418円まで、数十冊あります。筒井さんと手塚さんのコラ
ボの本は、これしかないみたいなので、ファンの方はご購入を。
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