「夢をまことに」~山本兼一
ハラハラ、ドキドキは少ないが、ワクワクがある本。
主人公は「国友一貫斎」。近江の国友村で鉄砲鍛冶。
この小説、まったくのフィクションだと思ったら、いるんですね、国友一貫斎。
江戸の平穏な時期になり、鉄砲の注文が少なくなり、戦国時代は多くの鉄砲鍛
冶屋があったものの、半減。
ここで、少しハラハラ事件。村の年寄り(村政を預かる役人)数人が、自分たちを
差し置いて、彦根藩から二百匁玉の大筒の注文があったことから、訴えが有
り、これがこじれて江戸へ。
ここが、どうなるのか、ハラハラするところ。もちろん、一貫斎には落ち度はなく、
なんなく年寄りが罰せられ、ここはこれで幕。
さて、一貫斎は、鳥のように飛べないかとか、油を足さなくてよい火明かりができ
ないかとか、墨をいちいちつけなくともよい筆ができないとか、人が思いもつかな
い夢を追う男。
江戸へ来たのを幸いに、前に聞いた事がある、風炮(ふうほう・空気銃)を作ろう
と・・・勝山藩から風炮の実物をみせられるが、一匁五分の玉しか使えないもの
で、実戦には使えないもの。三匁目の鉄炮を作るようにいわれ、もちろん引き受
け、六分(約十八ミリ)の板を打ち抜く風炮を作り、この間、約一年の工夫。
その後も、越後村上藩から、見た事もない、オランダ式の距離測定器の注文、他
に神鏡(鏡に太陽の光を反射させると絵が影になって浮かぶ)等を作る。
ほとんど、本体より素晴らしいものを改良していくが、一番物語の中心になるの
が、テレスコップ(反射式望遠鏡)。
尾張犬山藩主より、見せられ、これより優秀なものを作ると約束するが、工夫に
工夫を重ね、出来上がったのが、十五年後。もちろん、オランダ製より優れたも
の。
あと、海の中を動くことができる船(潜水艦)、空を飛ぶ事など、いつも夢を持ち、
追いかけます。もちろん、試験的な事もしますが。
この間、いろんな多種な職人の協力を得るための出会いがあり、皆、一貫齋の
考えに同調し、協力をしていきます。一貫斎が工夫を重ねていくところ、成功する
かどうか、ワクワクします。
こうして、読んでいくと、誰かが作った物に工夫を重ね、それより優れたものを作
っていく物語みたいですが、現代日本人は以前、外国のものをマネしながらも、
それより優秀なものを作り、経済発展をしてきました。
この物語を読みながら、日本の発展の歴史を思い出すものものでした。今まだ
残る職人かたぎを、日本の発展に役立たせてもらいたいと思うのですが。
どちらかというと、淡々とした物語ですが、日本のこれからの行き方を考えさせら
れるものでした。同時に、夢は誰でも持てますが、ほとんど実現できないもの。自
分の生き方にも、反省させられました。
惜しむらくは、当時、一貫斎が作った望遠鏡は今も鮮明に見えるらしく、できれ
ば、作った物の写真、図面なども載せてあれば、まだ面白い小説になったと思う
のですが・・・・・
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