図書館奇譚~村上春樹著
昨日、本屋さんに行ったら、少し薄いけど「図書館奇譚」という、洒落た本が置い
てあり、著者を見ると、村上春樹さん。
買って来て読んで見ると、以前の作品で、私が持っていた「カンガルー日和」に
収録されていました。
筋の方は、短い短編なので(長い短編は無かったか )読んでいただくとし
て、この左の新しい本、「あとがき」に、いきさつがこう書かれています。
この話最初、「トレフル」という、某百貨店のPR誌に連載され、「他の短めの作品
と一緒にまとめられ、1983年9月に平凡社から『カンガルー日和』というタイトル
で出版された。現在は講談社文庫に収められている。これがこの作品のそのも
のオリジナルのかたち(ヴァージョン1)」
右は講談社から1986年第1刷発行ですが、作者「あとがき」では1983年7月
になっていますから、こちらに載っているのが、オリジナルの形でしょう。なお、平
凡社からの出版が9月で、「あとがき」は7月ですが、「あとがき」は先に書かれた
ものと思われます。
さて、この後、同じく講談社から出ている「村上春樹全作品1979~1989」に収
録する時、文章に手を入れたそうで、これがヴァージョン2。
次に、佐々木マキさんと、この本を絵本化するにあたり、「『子ども向け』寄りにリ
ライトしたわけだ」。タイトルも「ふしぎな図書館」。これがヴァージョン3。
数年前、ドイツのデュモン社が、この本のドイツ語訳の出版を申し出、ただし絵
はドイツ画家、カット・メンシック。上の左の本になります。
こんな感じで描かれています。
なお、この本(刊行予定も含め)スペイン語、イタリア語、ヘブライ語、チェコ語、
フランス語、中国語、韓国語で翻訳。文章は絵本版「ふしぎな図書館」、ヴァージ
ョン3がテキスト。
そして、本書「図書館奇譚」(日本語版)は、オリジナル(ヴァージョン1)に、あら
ためて手を入れたものになっている、ということで、ヴァージョン4になります。
比べて見ると、(講談社版は「講」、新刊は新潮社で「新」にします。
講:僕は買ったばかりのポロの革靴をはいていたので・・・
新:僕は買ったばかりの茶色の革靴をはいていたので・・・
講:「実はオスマン・トルコの収税政策を知りたいと思っているのですが」
新:「実はオスマン・トルコの収税政策について知りたいのですが」
講:べつにそれは杉の花粉症の治療法というテーマでも良かったのだ。
新:べつにそれは、三角測量の歴史というテーマでもよかったのだ。
文体の少しの違いでも、全体的には違った印象になります。
「文体の少しの違いでも、全体的には違った印象になります」
「文体の少しの違いでも、全体的には違ってた印象になる」では、与える印象は
違って来ます。
この本4ヵ国において、絵本として出版、出版予定されているそうですが、村上春
樹氏は「あとがき」で次のように述べています
「そのようにして、ドイツ版、アメリカ版、イギリス版、そして最初の日本版と、四種
類の絵本版『図書館奇譚』が、この世界に揃ったわけだ。もしできれば読み比
べて(見比べて)いただきたいと思う。きっと『同じ文章の内容で、これほどまでに
違うものか』と、驚嘆されるに違いない。」
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