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2015年1月 9日 (金)

映画「第三の男」★「読み比べ」「見比べ」~原作を読む

Photo Img_20150109_0001

「第三の男」と言えば、知らない方はいないでしょうね。


本も出版されているので、見比べ、読み比べをしてみました。やはり、どう比べて

みても、映画が良いですね、本の方が面白い所は、作者、グレアム・グリーンに

よる「序」と、評論家、川本三郎氏の解説、「黄昏の維納(ウィーン)」ですね。


映画といえば、最初、原作があり、それを元に脚本が書かれ、撮影に入るわけで

すが、この映画、最初に、イギリスのプロデューサ、アレクサンダー・コルダが企

し、監督キャロル・リードのために脚本をグレアム・グリーンに依頼してます。


グレアムグリーンは「序」で「先ず物語を書いてからでないと、シナリオを書くこと

は私にはほとんど不可能だ。」と書いていますが、ところが、この物語、「残りあと

三日という時にも、何のストーリーも浮かんでこなかった。」


残り二日目になった時、「イギリスの情報組織の若い将校と昼食を共にする幸運

に恵まれ」その時、「地下警察」の事を知ったのですが、「地下警察」は、いわゆ

る「秘密警察」等の事ではなく、ウィーンの地下には巨大な下水道があります。


当時、戦後下のウィーンは、英、米、仏、ソ連の占領下に分割されていましたが、

「地下警察」とは、文字どうり下水道の中で働く「地下警察」。下水道は四大国の

管理下になく、各国の情報部員は自由に行き来でき、また、ペニシリンの裏取

引(後、分量を増やすため、混ぜ物を入れ犠牲者が多数でる。)の事を聞き、地

下道を回りながら、物語の全体像が形をなして来たそうです。


さて、映画は左のような感じで出ますが、分かる方には分かるし、分からない方

には分からないし・・・これ、映画全編に流れる、チターと(ツィター)いう楽器で

す。


アントン・カラスのチター、モノクロの光と影、そして、最後のシーンがなければ、

この映画は成り立たなかったでしょう。

Photo_21 Photo_22

主人公は、ホリー・マーチンス。アメリカ人で、ベンジャミン・ベクスターという

名で、本を書いている三文作家。


この、マーチンスがかっての悪友、ハリー・ライムにウィーンに呼ばれますが、着

いてみると、ハリーは、ついさっき交通事故で死んだとのこと。葬式に間に合いま

すが、その中に、アリダ・ヴァリ扮する、ハリー・ライムの恋人、アンナ・シュミット

がいます、あとで、ホリー・マーチンスはアンナに恋心を抱きますが・・・ウチのカ

ミサンの方が美人だな・・・失敬・・本では「美しい顔じゃなかったーそれがいけな

かったんですよ。毎日毎日一緒に暮らしたい、そんな顔でした。飽きのこない顔

でした。・・・・」という感じの女性です(美人は三日見ると、飽きるか)。職業は、三

流劇場の女優。


そのうち、マーチンスはライムの死に疑惑を持つようになりますが、自動車には

ねられた時、運んだのが二人、にも関わらず、それを目撃していた、宿の門衛

は、人の男がいたと、即ち「第三の男」がいたことをきき、いよいよ疑問をいだ

きます。


そのうちキャロウェイというロンドン警視庁の警察官が、ハリーについて、彼がペ

ニシリンの密売をしていた事を打ち明け、協力を求めますが、最初は拒否をしま

す。


さて、映画では、「ホリー・マーチンス」になっていますが、本では「ロロ・マーチ

ス」になっており、最初はイギリス人の俳優を予定していたみたいですが、「イ

ギリス人ではなくアメリカのスターを選んだ結果いくらかの変更を余儀なくされた

ーハリーもアメリカ人に変えねばならなかったことだ。ジョセフ・コットン氏は、きわ

めて当然な理由によって、ロロという名前に反対した。アメリカ人には、ホモセク

シャルの含みがあるように聞こえるからである。」


なお、アンナもハンガリー人からチェコ人に変更されています。アンナの身分証

明書はハリー・ライムが偽造をしています。もちろん、分かれば、ハンガリーに強

制送還です。


ホリー・マーチンスは、キャロウェイ大佐に、偽造ペニシリンの被害者を見せら

れ、アンナの正式な身分証明書を作ることを条件に、ハリー・ライムの逮捕に協

力する事を引き受けますが、事情を知ったアンナはこれを破り捨ててしまいま

す。


アンナのハリー・ライムに対する気持ちは、「思ってるわけじゃありませんが、あ

たしの中にいるんです。それは事実ですわー友情と言うものじゃありません。だ

って、恋愛の夢を見る時は、いつも相手は彼なんですもの」

Photo_6 2

有名な、観覧車のシーンですが、ここで、ハリー・ライムはホリー・マーチンスを仲

間に誘いますが、もちろん断り、ハリー・ライムは悪事を止めることを断ります。


ここで、ハリー・ライムは、なぜアンナがソ連に連行されたかを話します。

「この地区(ソ連地区)に住まわせてもらうには、サービスしなきゃならんのだ。お

れはときどきちょっとした情報を提供しなきゃならんのさ」

・・・・・・・・

「彼女はどうなるはずだったんだ?」

「たいしたことじゃないよ。ハンガリーへ送還されただろうな。実際、罪はおかして

ないんだからな。まあ、一年の強制労働か。イギリスの警察にこづきまわされて

いるよりも、自分の国へ帰った方がずっといい」

「彼女は警察にきみのことは何もいってないぞ」

・・・・・・・・・この部分は、映画も、本も同じ。


観覧車から降りて、ハリー・ライムは、あの名言を吐きます。

「ボルジア家支配のイタリアでの30年間は戦争、テロ、殺人、流血に満ちていた

が、結局はミケランジェロ、ダヴィンチ、ルネッサンスを生んだ。スイスの同胞愛、

そして500年の平和と民主主義はいったい何をもたらした?鳩時計だよ」。なお、

この台詞は、本には載ってなく、ハリー・ライム役のオーソンウェルズの発案であ

ったそうです。

Photo_8

ハリー・ライムは、ホリー・マーティンズの罠にはまり、待ち合わせのカフェに行き

ます。


映画ではアンナが現れ、危険を知らせますが、ここ、本の方では、ハリー・ライム

が気づいて逃げる設定です。ハリー・ライムは下水道へ逃げ込み、逃げ回ります

が、どうにもできません。


最後、必死にあがいて、格子状になった、マンホールの空いた穴から指をさしだ

し、必死に持ち上げようとしますが、もちろん上がりません。


下水道側だけでなく、地上からも撮ったカメラワーク、凄いですね。地上に突き出

された指。生への執念がヒシヒシと伝わります。

ハリー・ライムはホリーマーティンズの銃弾に倒れます。

Photo_14

問題のシーンです。ハリー・ライムの葬儀の後、本では


「・・・・彼が長い脚で彼女のあとを追って行くのを見守っていた。追いつくと、二人

は肩を並べてあるきだした。彼は一言も話しかけなかったようだった。物語の終

わりのように見えていたが、私(キャロウェイ大佐)の視野から消える前に、彼女

の手は彼の腕に通されたー物語はふつうこんなふにして始まるのだ。」


映画では、ご存じの通り、アンナはホリー・マーティンズに目もむけず、通り過り

すぎていきます。男は「未練」を持って、女はこれからの人生の「決意」を持って

のすれ違い。


この場面に関しては、グレアムグリーンがかなり、心配したようでしたが、「ごく少

数の重要な論点の一つは、結末に関するものだったが、結果は彼のみごとな勝

利であった」。と書いています。


ただ、私としては気になるのが、最後の部分。アンナがまっすぐ来て、少しばか

右の方へ曲がります。これ、カメラとの関係でしょうが、できれば曲がらずに、ク

レーンを使うなりで、まっすぐ歩いた方がより感動的だったのでは・・・・?

Photo_17

なお、撮影はロバート・クラスカーになっていますが、川本三郎氏の解説では、

「映画史上最高といっていいラストシーンのカメラをまわしたのは”additional

photography"とクレジットされているハンス・シュニバーガー。かって、あのナチス

のプロパガンダ映画『民族の祭典』を作った女性監督・カメラマン、レニ・リーフェ

シュタールの恋人だった人物である。・・・・」と書かれています。



(参考・引用:「第三の男」~グレアム・グリーン著・小津次郎訳)







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