「挨拶はたいへんだ」~丸谷才一著&「文藝春秋12月」より
文藝春秋の新しいのが出ていて、「弔辞・鮮やかな人生に鮮やかな言葉」というのがあり、
これで思い出したのが、丸谷才一著の「挨拶はたいへんだ」。2001年の出版ですから、少
し古い本になりますが。
この本、持ってはいたのですが、カミサンから「邪魔」の一言で、他の本とまとめて、リサイク
ルセンターに持って行ったのですが、再度、図書館から借りて読んでみると、やはり、丸谷
才一氏、挨拶の名人です。
挨拶を頼むと、「いや、私は挨拶がヘタで」と避ける方が多いのですが、やはり、人前で挨
拶をするのは難しいものです。私も、結婚式の祝辞を頼まれた事があるのですが、冷や汗
ものでした。
私、仕事柄、お偉い人の挨拶文を、何回か書かされましたが、昨年の挨拶文を読んで、少
し手直しをするだけでした。どうせ、私が人前で挨拶するわけでなし・・・
前に、司馬遼太郎の開高健への弔辞を紹介しましたが、あれは、良い弔辞でした。「大兄
の病に篤し、との知らせを仄かにうかがった朝、天から舞いこむようにして『文學界』所載
『珠玉』がとどき、吸いよせられるようにして読みました。」少し後に「大兄とはいかにも縁う
すきかかわりでありました。・・・・」とありますが、
この「縁うすき」がうまい。普通、弔辞というと「縁厚き」人がするのですが、聞いている人は
「なんで、縁うすき人が挨拶をするのか」疑問に思わせ、その後、開高健との関係を話して
いく。これ、みんな、引き込まれますね。
さて、「挨拶はたいへんだ」。弔辞、祝辞、自分の文学賞受賞の際の挨拶等が載せてありま
すが、最初に説明が少し書いてあり、これが、また上手い。
挨拶は、最初に人をどう引きつけるかが大事で、そうすると皆さん、最後まで聞いてくれる
もの。
■結婚論についての一考察~千歳潤、山本元子結婚披露宴での祝辞
「結婚といふものを褒め讃える名文句は非常に少ないんです。逆に結婚を悪く言う名セリ
フは非常に多い。これは面白いことです。こんなに悪く言われながら、しかし、人間は昔
から 結婚という制度を続けてきた。・・・・」
結婚式で、「結婚を悪く言う名セリフは非常に多い・・・」。こんな失礼な事、言えはしません
が、あとは、なるほど、と言うように纏めています・・・
■天の恩寵は彼にあった~辻静雄葬儀での弔辞
「人生といふのは不思議なものですね。年上のわたしがいまここにゐるのに、五つ下の
辻さんが世界に存在しないというのは納得がいかない。いまは午後の二時、ちょうどど
こかの料理店で食事をご一緒したあと、果物でも食べているところだった・・・・・かも知れ
ないのに。・・・・」
目に浮かぶような感じです。
■今年の読売文学賞はいいですよ~第14回読売文学賞での乾杯の辞
「一体にこの文学賞は権威があって質が高いのですが、でも、強いて難を言へば、いつ
も受賞者の年齢が高いといふことがありました。時として、大久保彦左衛門が六人並ぶ
ような年もあった・・・・」
これには、受賞者の皆さん、参加者の皆さん、大笑いだったでしょう。人の心を掴むのがう
まい。
「文藝春秋」からです。
■「ただいま飛びます」~坂上二郎への萩本欽一の弔辞
「笑顔で見送ってください 坂上二郎はただいま飛びます 飛びました」
コント55号で、パワフルな舞台を見せてくれた、坂上二郎さんの姿が目に浮かびます。
■あばよ、さよなら談志師匠~立川談志への石原慎太郎の弔辞
「談志師匠。ご遺族の依頼で弔辞を述べることになりましたが、いまさらもう弔辞じゃね
えよな。君が亡くなる3日ほど前に、君と奥さんとお嬢さんもいらっしゃらなかたので、い
らした女性の秘書さんに聞いたら、もう声も出せないというのでいいから俺が一方的に
話すから、受話器を彼の耳元に持っていって俺からだといってくれ、といいました。そし
て最初に『おい談志お前もそろそろくたばるらしいな』といった。・・・・・」
いかにも、石原慎太郎の弔辞ですが、「・・・あれは俺が俺なりに君に渡した引導だったかも
知れないな。・・・・」と言っています。
■先生の着物~北方謙三から渡辺淳一への弔辞
「弔辞。渡辺先生、初めてお目にかかってからずいぶんと長い歳月が過ぎました。
はじめは「さん」付け、次は「君」付けで。そして「謙坊」でした。呼び捨てにされても私は
変わらず敬意をこめて『先生』と呼び続けています。
お二人の関係が、誰にでも分かる言葉だと思います。
挨拶を頼まれた方、丸谷才一さんの本を読んでみてください。参考になります。私も、丸谷
さんに弔辞を頼もうと思っていたのですが、亡くなっておられました。
いままで、一番面白かった、結婚式での祝辞。これ、多分、以前書いた覚えがあるのです
が・・・・お互い忘れてしまった事にして。立川誌の輔さんの「ハンドタオル」のマクラの部分
です。真面目な、誌の輔さんだから、事実だとおもいますが・・・うる覚えですが・・・
某結婚式に呼ばれた時、新郎の上司の挨拶
「新郎新婦、ご両親の方、本日はおめでとうございます。・・・私事で恐縮ですが、私も3ヶ月
前、再婚をし、会社で、この歳をして、新婚、新婚と冷やかされている毎日なのですが、ま
あ、正直に思っていることを申しあげますと、替えてみても、あまりかわりは無かったと
・・・、新郎新婦、これから山あり川ありと、いろいろな辛いことがあると思いますが、その時
は、私の言葉を思い出していただきまして、替えてみても大差はないぞと・・・簡単ではあり
ますが。」
ところで、最近の葬儀には、お孫さんあたりの、お別れの言葉が流行っており、弔辞という
は有名人の葬儀ばかりになりました。私も、あの弔辞、一回やってみたいのですが、アナタ
の葬儀の時、させていただけたら、幸いなのですが・・・・
(文引用:「挨拶はたいへんだ」「文藝春秋12月号」「ハンドタオル~立川誌の輔」より)
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