「辞書になった男~佐々木健一著」「明解物語~柴田武監修・武藤康史編」 その2
iPadに入れた、「明解」の七版です。辞書は厚く、場所を取るので不便ですが、電子辞書は
便利ですが、何となく、味気ないですね。
さて、見坊氏は東大の国文科に入りますが、その中で、国語学を選んだのが、渡辺綱也
氏、そして、山田忠雄氏の三名。
山田忠雄氏のお父さんは、国語学者の山田孝雄氏で、大学教授、貴族院議委員。戦後、
公職追放にあるも、後年文化勲章も受章したそうです。
山田忠雄氏は、(辞)にもの持っていますが「空気のような存在・山田」だったそうで、見坊
氏も「山田孝雄博士の息子だなんてことも、あまり知られていなかったぐらい」と言ってい
ます。
見坊氏の父親と、金田一京助氏は、盛岡小学校と盛岡中学校の先輩後輩にあたり、大学
の卒業の時、挨拶と、就職があったらお願いします、と言って帰ったそうですが、半年後、
当時、大学院にいた見坊氏に、金田一氏が監修する、三省堂の辞書の編集者に採用され
ます。
これは、ただ、金田一氏が推薦したからではなく、見坊氏の前にも、同じ東大の同期生が三
省堂から、話があったそうですが、「・・・・落第してしまったんだ。」(明)ということもあったそ
うです。
さて、見坊氏も三省堂に面談に行くと、それまで出版していた「小辞林」を渡され、辞書の語
釈が文語体だから、口語体に直してくれ、新規に入れても良い項目があったら、入れても良
い」と。
見坊氏は2週間後、三省堂を訪れますが、提案として、「引きやすいこと」「わかりやすいこ
と」「現代的なこと」を提案します。とくに「引きやすいこと」。当時の辞書は歴史的かなづか
いで「カウ(校)」だか「カフ(甲)」だか、分かりにくいので、発音式にすること(「栄養」を「エ
イヤウ」「エイヨウ」ではなく、「エエヨオ」と発音通りで表記すること)等を、2時間ばかり説明
し、採用されます。
見坊氏は、辞書を作るのに、企画、立案、交渉、執筆と(アクセントは金田一春彦)独断的
に動きますが、友だちにも少し手伝ってもらえたら、という事で、同級生の渡辺綱也氏に話
をしたのですが、金銭的な考えの違いから、話がつかず、当時、岩手師範に勤務していた
山田氏に依頼したそうす。「山田氏には校閲、助言をたのむなど、勝手に事をはこんでしま
った。」そうです。
これを、山田先生が、どう取られたか分かりませんが、「こうした状況が、後の山田先生
の”あの発言”「見坊の嫌がる表現をとるならば、出発の当初において、私は”助手”だっ
たのです」という発言に繋がるそうです。
新明解の初版【じつに】の項
【じつに】「助手の職にあること実に十七年[=驚くべきことには十七年の長きにわたった。
がまんさせる方もさせる方だが、がまんする方もするほうだ、という感慨が含まれている。]
「十七年」という期間は、これまで山田氏が見坊氏と共に、辞書の編纂、改訂作業にあたっ
ていた期間を積算したものであろう」(辞)と書いてあります。
さて、「明解」は売れますが、辞書は、新しい言葉、解釈など改訂が必要で、「明解」の改訂
版が出されたのが、和二十七年。それ以降、改訂三版は数十年出版されません。
この間、昭和三十五年に「三国」が見坊氏の手で作られますが、「明解」「三国」も改訂版が
出されない状態が続きます。
その理由は、見坊氏が「用例採集」にのめり込んだという事で、カードに「言葉」を集めて、
書き込むという事ですが、生涯かけて集めた、「見坊カード」が145万枚にもなるそうです。
この、「用例採集」が凄かったらしく、(明)に「見坊豪紀の私生活」が書いてあり、兄弟三名
のインタビューになりますが、
「『用例採集』をやっていないのは風呂に入っている時間と歯を磨いている時間ぐらいです
ね。食事している時間は新聞は読みませんが、テレビで採集出来ますから」
(明)によると、「当時(昭和35年の『三国』初版刊行以降)は、「明解」の改訂と「三国」の改
訂が同時に進んでいた、見坊さんとしては、同時に二冊は出来ないから山田さんにやって
くれ、と仰ったんじゃないかな」(柴田武氏談・「三国」「新明解」両方の編集者を務める)
「三国」と「明解」と「新明解」の関係です。
ここで、(辞)の著者、佐々木健一氏がいう、「三国」「新解」の違いが出て来ます。「客観」と
「主観」、「短文」と「長文」、「現代的」と「規範的」。
いよいよ、佐々木健一氏が気にする「謎の日付『一月九日』」の事が出て来ます。この日を
境に、二人は決別します。これは、「新解」第四版、五版の【時点】の項に載っています。
■じてん【時点】・・・・・・・一月九日のーでは、その事実は判明していなかった
さて、一月九日に、何が起こったのか、又明日。
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