「考証要集・秘伝!NHK時代考証資料」~大森洋平著
NHKの大河ドラマ「黒田官兵衛」、波に乗ってきたようで、楽しみに毎週見ていますが、あ
の物語のバックには、時代考証という難しい問題があります。
その時代に、本当に合ったものかどうかをチェックしていくのが、時代考証ですが、筆者の
大森さんは、自分の仕事について、「NHK内部で考証にあたる私の役目は一口に言いま
すと、専門家の守備範囲外をカバーし、複数の専門分野の谷間に生じた疑問に答えるこ
とです。これは意外に働きどころが多く、私自身は『時代考証のすき間産業化』と呼んでい
ます。」と書いていますが、「雑学的な知識を大量に仕入れることが重要で、様々なジャ
ンルの本を読むのがその第一です。インターネット情報はタダだけに信頼できないものも
多いからいけません。」とも書いてあり、ほんと、私も反省 (^-^; ハンセイ。
さて、内容の一部をご紹介しますが、大森さんの「考証メモ」は優に一万ページを超えてい
るそうで、この本に載っているものは、専門の先生に確認、、また、出典が確かなものば
かりだそうです。
■洗濯板【せんたくいた】
花王石鹸編「日本清浄文化史」(127頁)によると、登場するのは明治の中頃。よって江
戸時代の長屋で、おかみさんたちが洗濯するシーンで使ってはいけない。
■大山鳴動鼠一匹【たいざんめいどうねずみいっぴき】
いかにも日本古典的言い回しだが、実はラテン語の詩句を訳したもので、明治以後に広
まった。時代劇での使用不可。
■初孫【ういまご】
正しい読みは「ういまご」で「はつまご」ではない。「初陣」「初産」「初子」「初々しい」に同じ。
最近、台詞の読み違いが非常に多いので注意。
■がめつい【がめつい】
驚くべき事に昭和34年の菊田一夫の芝居「がめつい奴」によって広まった流行語(小学
館『日本国語大辞典』)。したがってそれ以前の時代の台詞で「あいつはがめつい奴だ」等
と使うのは不適切。殊に時代劇では絶体不可。・・・・・・・・
■切り札【きりふだ】
これはトランプ用語だから、時代劇台詞で使ってはいけない。強いて言い換えるなら、「秘
中の秘策」「とどめの一矢」等と意訳する。
■鍋焼きうどん【なべやきうどん】
ゆめゆめ江戸時代劇に出してはいけない。岡本綺堂は「江戸以来の売り物ではない」と言
っている(『江戸に就いての話』青蛙房、158頁)。鍋焼きうどんは明治初期に大阪で考案
され、西南戦争後に東京にもたらされ、下町から普及した。・・・・・
■サイコロの赤目【さいころのあかめ】
時代劇のサイコロでは、一の目を赤にしてはいけない。「サイコロの一の目は赤色だが、
少なくとも大正時代までは黒色だった。赤になったのは昭和初期ではないか」と遊戯史研
究家の横川宏一氏は日刊ゲンダイ(1006年7月26日)「街中の疑問」欄で述べている。
時代劇の小道具では注意すべし。大河「平清盛」のオープニングタイトルでは、ちゃんと黒
色にしている。
■二君【じくん】
二人の主君。「じくん」と故実読みをする。「忠君は二君につかえず、貞女は二夫(じふ)に
まみえず」。「二郎」が「にろう」でないのと同じ。
まさに、目からウロコが落ちる、という感じですが、
「目からウロコ」は「これは新約聖書使徒行伝第九章のパウロ回心の場に出て来る言葉
で、日本古来のものではない。明治のキリスト教解禁で、聖書の翻訳が可能になってから
広まった表現である。よって時代劇の台詞で粋な江戸っ子が、『あっしは目からウロコが
落ちやした』などと言ったら、そいつは隠れキリシタンになってしまうのでくれぐれも注意
すること。」と書いてあります。
まだまだあるんですが、きりが無いので、あとはご自分で購入してお読みください。読みや
すいく、役に立つ本です。絶対的にお薦めの本です。
なお、本の中で、「守貞謾稿」の事が書いてありますが、この本は、江戸時代の風俗につ
いての考証的随筆で、近世風俗史の基本文献であり、岩波文庫から全五巻で「近世風俗
志」として出版されています(私、まだ二巻目までしか買っていませんが・・・・)。
初めの所は、多少読みづらいのですが、後は、絵も入って楽しめます。
江戸時代の看板図の所。「白粉(おしろい)屋看板」では「元禄三年板『人倫訓蒙図彙(じ
んりんきんもうずい)』に載する所なり。鷺(さぎ)を書きたるは、しろきものと云ふ判事物
(はんじもの~謎かけのこと)なり。」と書いてあって、江戸時代も洒落たものですね。
こちらも、「考証要集」に書かれている、江戸学の祖と云われた三田村鳶魚(みたむらえん
ぎょ)の著書。江戸が中心です。東京には7年間住んでいたので、もっと早く読んでいれば
と後悔。全36巻、別冊2巻。
気楽に、江戸雰囲気を味わいたい方は、漫画で。
漫画家で、江戸風俗研究家、NHK「お江戸でござる」にも出演していた、故杉浦日向子さん
(残念ながら46歳で亡くなりました)の作品でお楽しみください。作品は、他にもたくさんある
のですが・・・
「考証要集」を読んで、時代劇を見たら面白いですよ。ゴールデンウィークで、お出かけの
予定が無い方、時代劇が好きな方は、この機会に是非お読みください。
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コメント
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私が好きな時代考証の話は「大江戸神仙伝」シリーズの石川英輔さんのものですね・・・江戸においては大名行列のときにも土下座をしなくていいとは初めて知りました
三田村鳶魚さんの著作が文庫になっているとは知りませんでした・・・でももう読み直す元気も視力も無いかな^^;
投稿: 心づくし | 2014年5月 3日 (土) 00時34分
こんにちは。
歴史に限ったことではないのですが、結局はどの様な「典拠」に基いているのかが大きな鍵で、その点が明示され、その典拠を辿って裏付けを取れる様に書くことが大事なのでしょうね。私もその点は留意して書くように心掛けてはいるのですが、意外に骨の折れる難しい作業ですね。
投稿: kanageohis1964 | 2014年5月 3日 (土) 07時07分
心づくし様
「土下座・平伏」についても次の通り書いてありました。
「この場合被り物を取るのが常識。某戦国時代劇で主人公が顔を見られないように菅笠を被ったまま平伏していたが、ありえないことである。かえってあやしまれる。隠れていればすむことだ。」
こういうことを知って、時代劇を見るのは楽しいですね。
三田村さんの本、全部読むのは、まあ、お互いに無理ですね。残念ながら・・・・
投稿: sugikan | 2014年5月 3日 (土) 23時32分
kanageohis 1943様
「地誌のはざまに」の資料収集、検証、大変みたいですね。
こちらも、出典については極力調べてはいるのですが、出典同士、矛盾するところもあり、判断に苦しむこともあります。
原典も誤って書いているものもあり、別のものと比べて検討したり、本当に骨が折れる作業です。
もっとも、私のはポカが多いので、偉そうなことは言えませんが・・・・・・・・
投稿: sugikan | 2014年5月 3日 (土) 23時46分