森鴎外のユーモア~寒山拾得・寒山拾得縁起
(群像 日本の作家2「森鴎外」~小学館刊より)
病院の待ち時間。スマートフォーンを利用して、「青空文庫」に、何か、短い読み物は無い
かと探していると、鴎外の「寒山拾得縁起」があり、面白く、ついでに、短いので、「寒山拾
得」の方も読んでみました。
「寒山拾得縁起」は、小説「寒山拾得」の後の方に、添え書きのようにして書いてあるので
すが、中身は大体こうです。
鴎外が何か書いてくれと頼まれ、「寒山拾得」を書いている時のこと、おりしも、子供から、
寒山の詩が出版されるので、買ってくれと云われる。
子供は、どうしても欲しくて、買ってくれと云うが、鴎外は、子供には無理だという。
ここで面白いのが、さすが鴎外の子供、云うことが、「詩はむずかしくてわからないかも知
れませんが、その寒山という人だの、それと一緒にいる拾得という人だのは、どんな人で
ございます。」
今の子供、こんな事言えるのいますか?今や、大人も子供も幼稚になっているんじゃな
い?私もだけど。
さて、鴎外は色々説明をし、この寒山は文殊で、拾德は普賢(後で説明します)だと云った
ために、子供は、ますます分からなくなる。
最後に鴎外は、「そして、とうとうこう云った。『実はパパアも文殊なのだが、まだ誰も拝み
に来ないのだよ。』」
本論の「寒山拾得」は、こんな話です。
唐の貞観のころ、閭丘胤という官吏がいた。台州に主簿(日本の県知事くらいの地位)とし
て赴任をする。
赴任する時、どうにもならないくらいの頭痛におそわれる。そこに、乞食坊主が現れ、直し
てしまう。
名前と、住んでいる所を聞くと、天台の国清寺、名は豊干(ぶかん)。閭が赴任するところ
も、国正寺のある台州。
台州には逢いに行って、ためになるような,偉い人がいないか聞くと、国正寺に、拾得という
ものがおり、実は普賢。寒巌という石窟に寒山という者があり、実は文殊という返事。
閭は赴任し、国清寺を訪れるが、同翹(どうぎょ)という僧が出迎える。豊干という僧の事を
聞くと虎の背に騎って、詩を吟じていたが、ある日、ふといなくなったとのこと。
拾得について聞くと、豊干が松林で拾ってきたが、寺で不躾なことをしでかし、現在、僧の
食器を洗っているとか。
寒山について聞くと、寒巌という石窟に住んで、拾得が食器を滌(あらう)うとき、残ってい
る飯や菜を竹の筒に入れて取って置いて、それを取りに来るとか。
閭が厨に案内された時、拾干と寒山は、厨に蹲っていた、どちらも痩せていてみすぼらし
い小男。
同翹が呼びかけ、閭が恭しく挨拶をすると、二人は、腹の底から籠み上げて来るような笑
い声を出すと、立ち上がって厨をかけだして逃げしなに、寒山が、「豊干が喋ったなと」と云
ったのが聞こえた。
という物語ですが、寒山が文殊、拾得が普賢というのは、寒山が巻軸を、拾得がほうきを
それぞれ手に持っている絵が多く残されており、巻軸は文字・思想・知恵を表しており、釈
尊の左に侍し、知恵を司る文殊菩薩の化身。拾得のほうきは、実践・行動を意味し、釈
尊の右に侍し、慈悲(行徳)を司る普賢菩薩の化身であるとされているそうです。
(「寒山拾得」~久須文夫著より)
正体がバレたとたん逃げ出した寒山拾得。文豪、軍医総監、高等官一等などでありなが
ら、「余ハ石見人森林太郎トシテ死センント欲ス」で始まる遺言を残していった鴎外。何とな
く同じ匂いがするのですが・・・・
なお、この鴎外の「寒山拾得」は、詩集「寒山詩集」の「寒山子詩集序」に書かれた話とほ
ぼ同じです。
序を書いたのは、鴎外の物語に出て来る、、閭丘胤です。この序には、後半があって、二
人のことを調べさせたところ、竹・木・石・壁、村の人家の壁に書き散らした文句など三百
余首、拾得が土地堂に書いた偈文もあり、これを一巻の書物にしたそうです。
豊干・寒山・拾得の三人は「国清三隠」とも云われているそうです。
さて、文藝春秋社から、「現代日本文学館」という文学全集が出ており、10頁弱の附録が
あり、小林秀雄氏が編集ですが、この小説をどう解説しているか、楽しみだったのですが、
残念ながらこれには言及されておらず、解説を小島正二郎氏が次のように書いています。
「同じように面白いのは、『寒山拾得』だろう。この小説の面白さは、わざと説かずに置く。
これには『寒山拾得縁起』という一文が添っている、この、『縁起』を読まれると、いっそう
面白いだろう、ことに、最後の一行がいい。」
最後の一行は、前述した「実はパパアも文殊なのだが、まだ誰も拝みに来ないのだよ。」
です。
この本を読んで、釈然としない方がおられると思いますが、それで良いのです。「寒山拾得
縁起」にこう書いてあります。
「子供はこの話には満足しなかった。大人の読者はおそらく一層満足しないだろう。」
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コメント
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「寒山拾得」も40年以上前に読んだのですが全く忘却の彼方ですね・・・読んだのは奇しくも父親が購買していた文芸春秋社の「現代日本文学館」」でした^^;
ちなみに・・・「実パパアも文殊なのだが」の「実」と「ババァ」の間に「は」は入っていないのでしょうか?
投稿: 心づくし | 2014年2月 6日 (木) 18時16分
小さいところ、ありがとうございます。
ついでに、「何となく匂いが」ではなく、「何となく同じ匂いが」でした、訂正済みです。
「寒山拾得」は何となく、不思議な物語ですね。
投稿: sugikan | 2014年2月 6日 (木) 19時53分