育児日記~山田風太郎
山田風太郎と言えば高校時代「くノ一忍法帖」等にはお世話になりました、(「お世話」の内
容については男性の方にはお分かりになると思います)
その山田風太郎がこんな愉快な本を(日記を)書いていたとは予想外でした。
内容はは2人の子どもの育児日記ですが、はやり父性の目での日記ですが、少し書き
写したいと思います。
■子どもの顔を見たらユーゼンとして父性愛を生ずるかと思いしに、、ちっとも生ぜず、上
野博物館にある南米の土人の首を乾かし固めかためたやつみたいな顔を見ながら憮然
としている。
■もし佳織(娘さん)が死んだらどうするかと聞いたら啓子(奥さん)曰く「死んでも一週間く
らいは抱いて寝る。」それから又曰く「あなたは風呂にゆかないから死んだらすぐすぐ埋め
てしまいます」と
■夜五十嵐家で麻雀しようとしたれども佳織泣きわめきて啓子加わる能わず。従って麻
雀出来ず。大いに腹を立て牌を佳織の頭に叩きつける。
啓子曰く「三十三になって、九ヶ月の赤ん坊とケンカするのか」と。
■子どもの名、当用漢字にあって、字がきれいで、意味があって、発音が良くて、ほかに
例がなく、しかもあまりヒネリ過ぎないものとなると困惑せざるを得ない。
「知樹」(長男)とす。
さてこの子の生涯の運命やいかに。
■余と啓子(奥様)とトックミアイノ真似をしていると、佳織、人形を放り出し、「コノヤロ
メ!」と余に向かって来る。そして啓子に向かって「はやくにげな!」という。
■佳織、夕食を食べていてビワを食いたいといい出す。「もっとご飯を食べろというと、胸
をさして「ムネ(胸)まで来ているの」という。
「そんならビワももうたべられないはずだ」というと、頭をさして、「ここはまだ空いているよ」
■子供が無心に遊んでいる。それを眺めている父親の心は母親より冷淡であろうが、そ
れだけ複雑なものがある、冷淡だから複雑なのか。複雑だから冷淡なのか。
■よい学校にいれてやるのは、クレヨンを与えるに似ている。親としてはなるべくよいクレ
ヨンを数多く与えてやるのが義務であろう。しかし、それを以て人生の絵のを描くのは、つ
いに子供の天性の技量である。
■子供というものは、存在するだけで親はその報酬を受けている。
テーブルの向こうに小さな赤い顔をならべて飯を食っている風景、午後になると佳織りは
学校から、夕方になると知樹は外から「タダイマ-」と声はりあげて帰ってくる声、それだけ
で充分である。
■五十嵐家へは歩いて半里、途中、野あり森あり、先日佳織りと散歩したとき「佳織、一
人でお使いにゆけるか」ときいたら、しばらく考えて、「赤頭巾ちゃんみたいね」と、いった。
■天金にいって天ぷらを食う。子どもたち、めずらしいと見えて、良く食う。佳織り言う
「お父さん、無駄遣いじゃないの」
■知樹をだいていると、啓子「知樹の顔はお父さんより大きい」という。うっかり「この大頭
にずいぶんソシツの悪い脳みそがつまっているんだ」といったら「オレの頭のわるいのは
おまえのせいだゾ-ッ」と泣き声をあげ、死にもの狂いの声をだして怒った。悪いことをし
た。
取り上げれば切りが無いのでこのへんで止めますが、この日記は長女佳織さんの誕生か
ら中学校の1年の途中までの記録です。
山田風太郎は毎日、日記をつけているようですが、その中の子供に関する部分だけ書き
抜いて佳織さんの結婚がきまり、家を出て行くとき贈られたのがこの日記だそうです。
こんな素晴らしい結婚祝いは、世界中一とつとしてないでしょう。
佳織さんも「この日記は、かけがえのない私の宝物です。死んだら棺に入れてもらおうと決
めていました」と書いています。どんな遺産よりすばらしい遺産でしょう。
わたしも、これを読みながら日記をつけておけばと反省。
読みながら、うちの子も、あんな事、こんな事あったなと思い出すと、目がウルウルとして
きました。
子育てが終わった方も是非お読みください。愉快で、子供がいた頃の楽しかったことを思
い出しますよ。
それから、これから育児をされる方、へんな育児書を読むよりこの本のほうが役に立ちま
す。
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山田風太郎といえば「人間臨終図巻」全3巻を、思い出しては拾い読みします。
育児日記も面白そうですね。
是非読んでみたいと思います。
投稿: Lisa | 2011年11月 8日 (火) 20時55分
コメントありがとうございました。
わたしも「人間臨終図鑑」時々出しては読んでます。
育児日記とにかくおもしろいですよ。是非お読みください。
投稿: sugikan | 2011年11月 8日 (火) 21時15分